複利とは「増えた利息に、さらに利息がつく」仕組みだ。雪だるまが転がりながら大きくなるように、時間をかけるほど加速して増えていく。そして重要なのは、この武器の威力を決める最大の変数が、利回りでも入金力でもなく「時間」だということ。つまり、若い人ほど強い武器を持っている。この記事では、複利の仕組み・味方につける方法・敵に回すと恐ろしい理由まで、まとめて解説する。
単利と複利のちがい
単利は、最初の元本にだけ利息がつく方式。100万円を年5%の単利で運用すれば、毎年5万円ずつ、直線的に増える。複利は、ついた利息を元本に組み入れ、翌年は「増えた合計額」に利息がつく方式だ。1年目の利息5万円が、2年目には自分も利息を稼ぐ側に回る。この「利息が利息を生む」構造のせいで、増え方は直線ではなく上向きに反り返るカーブになる。
図を見ると分かるとおり、最初の10年は単利とほとんど差がない。差が爆発するのは後半だ。ここに複利の本質がある。複利は「我慢の前半」と「加速の後半」でできていて、後半にたどり着いた人だけが果実を受け取る。途中でやめれば、いちばんおいしい区間を捨てることになる。
72の法則=2倍になる年数の早見
複利の効きを暗算するための有名な目安が「72の法則」だ。72 ÷ 年利(%)=資産が約2倍になる年数になる。
①年3%なら 72÷3=約24年で2倍
②年5%なら 72÷5=約14年で2倍
③年7%なら 72÷7=約10年で2倍
逆向きにも使える。「20年で2倍にしたい」なら 72÷20=年3.6%が必要、という具合だ。そしてこの法則は、後述するとおり借金にもそのまま適用される。年15%のリボ払いは、72÷15=約5年で残高が2倍になる計算だ。
具体例=100万円・年5%・30年
100万円を年5%で運用したとする。式は「元利合計=元本×(1+r)n」(rは年利、nは年数)。単利なら30年で250万円。複利なら約432万円。同じ元本・同じ利回りで、182万円の差がつく。差を生んだのは追加の入金ではなく、利息が利息を生んだ“雪だるま”の部分だ。ちなみに10年時点では単利150万円・複利約163万円と、差はわずか13万円しかない。複利の恩恵の大半は、最後の10年に集中している。
複利シミュレーター=自分で動かしてみる
毎月の積立額・運用年数・想定年利の3つを動かすと、資産の育ち方がその場でグラフと金額になる。金額を増やすより、年数を伸ばすほど効きが変わるのを体感してほしい。
スタートが早いほど効く=時間こそ最大の武器
複利の式で、利回りrは市場が決め、入金力は収入が決める。自分の意思だけで無限に増やせる変数はないが、ひとつだけ、今日始めるだけで最大化できる変数がある。年数nだ。毎月3万円を年5%で65歳まで積み立てた場合を、開始年齢別に比べてみる。
開始が10年遅れるごとに、最終額はおおむね半分に近づいていく。20歳開始と40歳開始では、毎月の積立額は同じなのに最終額に4,000万円以上の差がつく。40歳の人が20歳の人に追いつくには、毎月の積立を3倍以上にする必要がある計算だ。「若さ」は投資の世界では、それ自体が巨大な資産である。もちろん40歳からでも25年で約1,800万円(元本900万円)に育つのだから、遅すぎることはない。いちばん良いタイミングは20年前、次に良いのは今日、というやつだ。
複利が働く場所=再投資と増配
「複利で運用する」と言っても、複利専用の商品があるわけではない。ポイントは増えた分を引き出さず、運用に戻し続けることだ。具体的には3つ。
①投資信託の分配金再投資=受取型でなく再投資型を選ぶ。毎月分配型のように現金で受け取ってしまうと、そのぶん複利は働かない(タコ足配当の話で書いたとおりだ)。
②配当の再投資=個別株の配当を使わず、株の買い増しに回す。配当が新しい株を買い、その株がまた配当を生む。
③増配銘柄を持つ=企業が毎年配当を増やしてくれれば、持っているだけで受取額が複利的に育つ。買値に対する利回り(YOC)が年々上がっていく。
いずれも共通するのは「果実を摘まずに、木に戻す」こと。NISAを使えば、この再投資のサイクルに税金がかからず、複利の回転効率がさらに上がる。
マイナスの複利=下落・コスト・借金
複利は味方につければ最強だが、敵に回しても最強だ。3つの「マイナスの複利」を知っておきたい。
①下落の複利=資産が50%減ると、元に戻すには+50%ではなく+100%が必要になる。減った元本の上でしか増やせないからだ。大きなドローダウンを避けることが複利運用の生命線であり、資金管理が「守りの複利」と呼ばれる理由でもある。
②コストの複利=信託報酬は毎年、資産全体から複利的に差し引かれる。100万円を30年運用する場合、実質年5%で回れば約432万円だが、コストが年1%重く実質4%なら約324万円。たった1%の差が、30年で100万円超の差になる。低コストのインデックス投信が推される理由は、この逆複利の最小化だ。
③借金の複利=リボ払いや消費者金融の年15%前後の金利は、72の法則どおり約5年で残高を2倍にする力がある。世界最強の増殖マシンを、自分の借金側で稼働させてはいけない。投資を始める前に高金利の借金を返すのが、実は確実に年15%で運用するのと同じ効果を持つ。
なぜ実感しにくいのか=脳は指数を直感できない
ここまでの数字を見ても、正直ピンとこないかもしれない。それはあなたの理解力の問題ではなく、人間の脳が指数関数を直感できるように作られていないからだ。有名な思考実験を2つ。
①紙を42回折ると月に届く。厚さ0.1mmの紙も、折るたびに厚さが倍になれば、42回で約44万km。地球から月までの距離を超える。
②米粒の倍々。1日目に1粒、翌日は2粒、と毎日倍にしてもらう約束をすると、30日目には5億粒を超える。豊臣秀吉が褒美でこの約束をして慌てた、という曽呂利新左衛門の逸話が残っている(真偽は諸説ある)。
脳は「毎日ちょっとずつ増える」を直線でイメージするが、現実の複利は後半で爆発する。「複利は人類最大の発明」というアインシュタインの逸話(これも真偽不明)が語り継がれるのは、それだけ直感に反する力だからだ。実感できないからこそ、シミュレーターや図で何度も目に焼き付ける価値がある。
誤解の先回り
誤解1:「複利だから必ず増える」。誤りだ。株式や投資信託は複利“的”に増えうるが、元本保証はなく、途中の暴落で経路は大きく変わる。平均リターンが同じでも、下落が来る順番しだいで最終額は変わる(取り崩し期の直前に暴落が来るのが最悪のパターンで、シーケンスリスクと呼ばれる)。
誤解2:「高い利回りを狙うほど得」。リスクも比例する。年20%で回り続ける商品はまず存在せず、高利回りをうたう話はまず疑う。複利は「現実的な利回り×長い時間」で使う道具だ。
誤解3:「途中の売り買いは関係ない」。複利の雪だるまは、転がし続けてこそ育つ。頻繁に利確して現金に戻すたび、雪だるまは小さく分解され、税金でひと回り削られてから再スタートになる。長期枠と短期枠を分ける発想(資金サイズ別の記事で書いたコア・サテライト)が、ここでも効いてくる。
確認する方法
投資信託なら「トータルリターン」(分配金込みの実質成績)と信託報酬(保有中のコスト)を見る。コストもまた複利で効くため、長期では小さな差が大きく響く。積立の試算は、金融庁の「資産運用シミュレーション」か、この記事のシミュレーターで、積立額・利回り・年数を変えて試すと感覚がつかめる。とくに「年数だけを変えたとき」の変化を一度見てほしい。それがこの記事で伝えたかったことのすべてである。
① 複利は「利息が利息を生む」仕組み。前半は地味で、恩恵は後半に集中する。やめた人から脱落する。
② 目安は72の法則(72÷年利=2倍になる年数)。開始が10年遅れると最終額はほぼ半分=時間こそ最大の武器。
③ 複利を働かせるには果実を摘まずに再投資(分配金再投資・配当再投資・増配)。NISAで回転効率が上がる。
④ 敵に回すと最強=下落(-50%は+100%必要)・コスト(信託報酬1%差が30年で100万円超)・借金(年15%は約5年で2倍)。
⑤ 脳は指数を直感できない。だから図とシミュレーターで何度も確かめる。